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小説【8】

 閑散とした裏通りにある、一軒のオンボロ宿屋。そこの二階の一室で静かに眠っている人が二人。
 まだ外も薄暗く、この宿屋の客も殆どが眠りについている。
 メフとフィーナも例外なく眠りについていて、先ほど記した眠る二人とは彼女達だ。
 しかし例外もいるわけで。その例外は、小柄な体に不釣合いな身の丈以上もある長い杖を側に置き、特徴的な模様が施されている白いローブを身にまとっている。
 言うまでもなく、まりぃだ。
 まりぃは化粧室にある鏡で、寝癖のせいでボサボサになった長い髪を梳いている。
「あーもう、なんで今日に限ってこんなになるのかしら」
 何度梳いても上下左右に跳ねる。もし今メフがまりぃの姿をみたら、
「まるでメデューサみたいだね」
 と言うに違いない。
「……よし、バッチリ♪」
 なんて言ってはいるが、ばっちり所かまだボサボサなままだ。どうやら諦めたらしい。
「こんなことしてる暇はないのよ。特訓するために早起きしたんだから」
 まりぃは使っていた櫛を流しの横に置くと、化粧室から出た。
 二階の廊下を通り、階段を降りる。そのまま出口へと向かう。
「お客さん!」
 扉を開けようとしたら、誰かに呼び止められた。
 まりぃは振り返って笑顔を作った。
「おはようバイト君」
 まりぃより二つくらい年下に見える彼は笑って、
「おはようございます、お客さん。寝癖、すごいですよ?」
 まりぃは前髪を指で弾いて、頬を朱に染めた。
「そーゆーバイト君こそ寝癖、すごいぞ」
「あ、たしかにそうですね。お互いさまでしたね」
 ニコニコ笑う彼を見て、まりぃは踵を返した。
「じゃ、わたし行くから」
「お一人でどちらへ? お連れの方への伝言をお預かりしましょうか?」
「ううん、いいわ。ちょっと散歩に行くだけだから」
 彼はまりぃのいでたちを見て首を傾げた。
「そんな格好で散歩ですか?」
 手に持つ杖に、背中に背負ったバック。そのへんをちょろっと散歩するにしては、重装備である。
「……そういう事にしといて」
 彼は再び笑顔になった。
「わかりました。行ってらっしゃいませ」
「うん。じゃねー」
 カラコロと、扉についている鈴を鳴らしてまりぃは外に出た。
「さてと、訓練施設はどっちかな?」
 まりぃがこれから向かう所は、この街で一般から騎士団までの様々な人たちが利用できる訓練施設である。尤も、騎士団は毎日相当過酷な訓練を団内で行っていて、わざわざ訓練施設にまで自習練習をしにくる人は珍しい。
 だがその珍しい人こそが、人一倍心身を鍛えているからして、団内での地位もそれ相応だ。したがって、訓練施設内で見かける騎士団員は、結構お偉方が多い。ある意味奇特な人々だ。実力重視の騎士団では、これくらいしないと上へ上がれないということでもあるが。
「よし。こっちだね」
 街の地図を見ていたまりぃは、ようやく進行方向を特定したようだ。訓練施設に向かって歩き出した。

 一方。宿屋で眠っていたフィーナが、目を覚ました。
 目を開けるが、何故か視界が暗い。それになんとなく苦しい。
 ……別のベッドで眠っていたはずのメフが、フィーナに抱きついて眠っていた。
 体格が大きいメフに抱きつかれると、フィーナの体はすっぽりとメフに覆われることになる。
「ちょ……ちょっとメフさーん。起きてくださーい!?」
 メフの胸の中でもぞもぞと暴れる。
「メフさん! メフさーん? 朝ですよー起きてぇ~!!」
「う……んん!?」
 ガバっとメフが跳ね起きた。抱きつかれていたフィーナも一緒に起きあがる。
「どうした? 敵襲か?」
 ドスの利いた声で、あたりをきょろきょろと見る。
「ちがいます~。苦しいので放してください」
「え?」
 メフが下を見る。フィーナが上を見る。二人の目が合った。
「あ……失礼」
 メフがぱっと手を放し、二歩後退する。
 フィーナは苦笑してメフを見た。
「起きたらわたしのベッドに、メフさんがいたから驚きましたよ。いつ来たんですか?」
 メフは朱に染まった頬をぽりぽりと掻いて、そっぽを向いた。
「いやそれが、全然覚えてなくて。ごめんね」
「いいえ、いいですよ。ちょっと面白かったですし」
 冷静なメフにもこんな一面があるのだと、フィーナは内心微笑んだ。
「じゃあわたし、顔洗ってきますね」
「あ、メフも行くよ。丁度いいからまりぃも起こそう」
 そう言うと、まりぃのベッドに視線を向けて、
「……あれ、いない」
 二人して首を傾げた。

「ここは、どこなのよーーーーーー!!」
 周囲にいる人々が、一斉に注目するのも気にせずに、まりぃは叫んだ。
「ああーもう! なんで? 目的地はどこよ。それからここどこなのよ!?」
 ブツブツ言いながら、まるで見当違いの方向へと進んでいく。
「おい」
 そんなまりぃを見かねたのか、近くにいた人が声をかけてきた。
「なによ?」
 イライラしているまりぃは、眼光鋭く、声をかけてきた真っ黒な服を着た長身の男を見上げた。
「……あ!!」
「……お」
 まりぃは男が誰なのか知ると、いきなり頭を下げた。
「ごめんなさいオーガさん!!」
 いきなり謝られたオーガは、面食らった。
「どうした。なにを謝っている」
 まりぃは頭を上げて、しかし視線は逸らしてオーガを見上げた。
「いやあの。メフとの約束で、今度あったら謝らなきゃって思って。前に失礼なことしちゃったから」
 アタフタ慌てるまりぃを一瞥したオーガは、
「いや、あの時名乗らなかったこちらにも非はある。お前が謝る必要はない」
 まりぃはオーガの目を見て、すぐに逸らした。
「そ、そう? ならいいんだけど……」
「それより」
 オーガはまりぃの持っている地図に目をやった。
「その地図、北と南を逆に持っているぞ」
 僅かな沈黙の後。
「……え? そうなの?」
「あぁ、そうだ」
 まりぃは真っ赤になった顔を伏せて、地図をひっくり返した。これでまともな見方になった。
「どこへ行く所だったんだ?」
「こ、国立第三訓練施設」
「ほぉ。お前、あそこの訓練許可証をもっているのか。さすがみゅうみゅうに鍛えられているだけはあるな」
 言われて、まりぃは首を傾げた。
「許可証? なにそれ。そんなのが必要なの?」
 オーガは眉をひそめて、まりぃを見た。
「なんだ、知らなかったのか? あそこは様々な訓練をする事が出来るが、試験を受けてある程度の実力が認められないと施設を利用することはできん」
 まりぃはしばらく呆然としていた。今日の早起きが無駄になってしまった。
「そんなぁ。せっかく早起きしてきたのに……」
 早起きなど、数時間も道に迷って日が昇りきっている今の時間帯では、もはや無駄になったも同然だがまりぃはそれには気付かない。
 完全にしょげかえっているまりぃを見てオーガはあることを思いついた。
「よし、お前が施設を使えるようにしてやろう」
 まりぃは顔を上げた。
「え……。本当?」
 オーガは頷いた。
「あぁ、本当だ。ただし条件がある」
「条件?」
「そうだ。これから向かう先で話す」
「? とりあえずついて行けばいいのね。分かったわ」

 時刻は過ぎて、夕暮れ時。
「まりぃちゃん、どこへ行ったのでしょうか?」
「メフに聞かれてもねぇ」
 トントンと、部屋のドアが丁寧にノックされた。
「はい、どうぞー」
「失礼します」
 入ってきたのは、今朝まりぃと話したバイト君だった。
「どうかしましたか?」
 フィーナが聞く。
「先ほどお客さん方宛てに手紙が届きまして、渡しにきました」
 フィーナに手紙を手渡す。
「オーガ=ウルフ? 誰?」
「あぁ、メフの友人だよ。ちょっと貸して」
 フィーナから手紙を取る。
「えーと。一月程まりぃを預かるが、心配するな。本人の許可も取ってある。用が済んだら家まで送り届けるから、闘技大会後は二人だけで帰ってくれ」
「え……。これって誘拐ですか?」
「……違うと思うよ」
 二人はまたもや首を傾げた。
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COMMENTS

No title

誤る→謝る
その後は謝るにちゃんとなっているが・・・
誘拐犯扱いは酷いよフィーナ(
ところでメフが元騎士団員に思えてくるのは俺だけか

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